金沢物性セミナー

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第16回 金沢物性セミナー

タイトル:近藤絶縁体における磁場誘起相転移

講演者 : 多田靖啓(広島大学)/ Yasuhiro Tada (Hiroshima University)

日時:2024年11月29日(金)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

通常、近藤絶縁体は電子相関の強いバンド絶縁体であると理解されており、金属とは明確に区別される。しかし、近年、近藤絶縁体であるSmB6やYbB12において電気的な絶縁性にもかかわらず、金属の代名詞である磁場中量子振動が観測され大きな注目を集めている。この実験を理解するために様々な理論的提案がなされているが、絶縁体における量子振動をどのように理解すべきかという問題については未だに決着がついていない。加えて、それらの理論的研究は基本的には量子振動のみに着目しており、実験で見られている磁場中物性を包括的に理解できる枠組みは整理されていないのが現状である。
本研究では、このような現状を背景に、磁場中の近藤絶縁体の基本的性質について理論的に議論する。近藤絶縁体の標準的なモデルに対して平均場近似を用いて解析を行い、ランダウ量子化とゼーマン効果、及び電子間相互作用が合わさった結果として、金属絶縁体転移点近傍の磁場領域でエキシトン絶縁体的な状態が安定化することが示される。セミナーでは、実験との比較を含めてこのエキシトン絶縁体状態に関連した磁性についても議論する。

Contact: 吉田靖雄, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト XX名、ZOOMオンラインXX名

第15回 金沢物性セミナー(日本物理学会北陸支部特別講演会)

タイトル:物質科学とカイラリティ

講演者 : 戸川 欣彦(大阪公立大学)/ Yoshihiko Togawa (Osaka Metropolitan University)

日時:2024年11月26日(火)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

物質中の電子やスピンや格子の協奏がもたらす巨視的応答の発現は物性物理の醍醐味の一つである。最近、カイラル物質においてスピン角運動量やフォノンが持つ角運動量が巨大に偏極して長距離に達することが見出された
[1-4]。その発現機構は謎であり、関心を集めている。講演ではカイラリティ誘起スピン選択性(Chirality-Induced Spin Selectivity:CISS)やカイラルフォノンなど動的な偏極現象を題材として物質中におけるカイラリティの意義を論じたい[5-7]。

参考文献:
1. A. Inui et al., PRL 124, 166602 (2020).
2. K. Shiota et al., PRL 127, 126602 (2021).
3. K. Ishito et al., Nat. Phys. 19, 35 (2023).
4. K. Ohe et al., PRL 132, 056302 (2024).
5. Y. Togawa et al., JPSJ 92, 081006 (2023).
6. 戸川欣彦ら, 数理科学 693, 9-15 (2021): 日本物理学会誌 76, 646 (2021).
7. 固体物理 2024年11月 特集号「物質科学におけるカイラリティ」.

Contact: Kei Takahashi, keitakahashi@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 15名、ZOOMオンライン 20名

第14回 金沢物性セミナー

タイトル:Van der Waals Epitaxy of Magnetic Transition Metal Dihalides

講演者 : Amina Kimouche (University of Potsdam. Germany)

日時:2024年11月11日(月)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

There has been a growing interest in exploring two-dimensional (2D) materials beyond graphene. Starting from 2017, new platforms have been discovered with which magnetism at low dimensions is explored. The introduction of a variety of atomically thin magnetic crystals like transition metal dihalides (TMHs) has inspired efforts to not only understand the nature of magnetism but also to investigate the growth mechanism in these magnetic crystals. In this regard, nickel bromide and manganese iodide monolayer islands were grown on metallic substrates. I will show how Low Temperature Multimodal Scanning Probe Microscopy (SPM) imaging combined with Kelvin Probe Force Microscopy (KPFM) and Magnetic Force Microscopy (MFM) can reveal a ferromagnetic ground state persisting even in the monolayer regime. Occasionally, various phases have been formed giving rise to a reach variety of electronic structures as revealed by KPFM. These van der Waals materials are expected to open a wide range of possibilities for quantum applications.

Contact: Toyoko Arai, arai@staff.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 18名、ZOOMオンライン 7名

第13回 金沢物性セミナー

タイトル:Critical Materials: Atom-by-Atom Investigations and Manipulations of Rare Earth Complexes for Energy and Quantum Applications

講演者 : Saw Wai Hla (Ohio University, Argonne National Laboratory)

日時:2024年10月17日(木)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

Complexes containing rare-earth ions attract great attention for their technological applications ranging from spintronic devices to quantum information science. While charged rare-earth coordination complexes are ubiquitous in solution, they are challenging to form on material surfaces that would allow investigations for potential solid-state applications. In this talk, we will present the formation and atomically precise manipulation of rare-earth complexes on solid surfaces [1,2]. Atomic scale manipulations and characterization of individual rare-earth complexes are performed with scanning tunneling microscopy and synchrotron X-ray scanning tunneling microscopy. I will also present our breakthrough research, where X-ray spectroscopy has been successfully performed for the first time to simultaneously characterize the elemental, chemical, and magnetic properties of just one rare earth atom [3].

[1] D. Trainer, A. T. Lee, S. Sarkar, V. Singh, X. Cheng, N. K. Dandu, K. Z. Latt, S. Wang, T. M. Ajayi, S. Premarathna, D. Facemyer, L. A. Curtiss, S. E. Ulloa, A. T. Ngo, E. Masson, & S. W. Hla. Adv. Sci. 2308813 (2024).
[2] T.M. Ajayi, V. Singh, K.Z. Latt, S. Sarkar, X. Cheng, S. Premarathna, N.K. Dandu, S. Wang, F. Movahedifar, S. Wieghold, N. Shirato, V. Rose, L.A. Curtiss, A.T. Ngo, E. Masson, and S.-W. Hla. Nat. Commun. 13, 6305 (2022).
[3] T.M. Ajayi, N. Shirato, T. Rojas, S. Wieghold, X. Cheng, K. Z. Latt, D. J. Trainer, N. K. Dandu, Y. Li, S. Premarathna, S. Sarkar, D. Rosenmann, Y. Liu, N. Kyritsakas, S. Wang, E. Masson, V. Rose, X. Li, A. T. Ngo, & S.-W. Hla. Nature 618, 69-73 (2023).

Contact: 吉田靖雄, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 24名、ZOOMオンライン 4名

第12回 金沢物性セミナー

タイトル:熱電効果で探る2次元超伝導体の磁束状態:量子相転移と非平衡相転移

講演者 : 家永紘一郎山口大学)/ Koichiro Ienaga (Yamaguchi University)

日時:2024年9月9日(木)、16:00-17:00

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

第2種超伝導体に磁場を印加すると,内部に侵入した磁束線は量子化磁束の単位で束ねられ,ナノ粒子として振る舞う。この粒子は現実の物質と同様に固体や液体などの相を形成する[1]。さらに温度,粒子密度,駆動力などを簡単に制御できることから,多粒子系の秩序形成や非平衡ダイナミクスを調べる舞台として用いられている[2,3]。本セミナーでは,最近我々が取り組んだ2つの研究について紹介する。
① 2次元超伝導体はゆらぎの影響を強く受けるため,厚い超伝導体とは大きく異なる性質を示す。ゆらぎには,⾼温で顕著になる熱的なゆらぎと,極低温で重要となる量⼦的なゆらぎがあり,後者は様々な興味深い現象を引き起こすと予想されている。しかし,これまでの多くの実験は電気抵抗測定に限られていたため,完全な実証には至っていない。我々は,極低温・高磁場域で予想されている,絶対零度でも凍結しない磁束の量子液体の存在を,熱電効果測定を用いて実証した[4-6]。
② 超伝導体内の磁束は,温度や磁場の減少により液体相から固体相へと秩序化する。この秩序化は,比熱測定によって熱的(古典的)な相転移であることが示されている。一方で,外部電流で磁束への駆動力を増加させた場合には,液体状フローから格子状フローへと動的な構造の秩序化が生じることが知られている。この秩序化が駆動力をパラメータとした非平衡相転移であることを,フロー方向に垂直な電圧応答の測定[7]に加え,電流駆動中の熱電効果測定[8]により実証した。

参考文献:
[1] G. Blatter, et al., Rev. Mod. Phys., 66, 1125 (1994).
[2] C. Reichhardt and C. J. Olson Reichhardt, Rep. Prog. Phys. 80, 026501 (2017).
[3] 大熊哲, 固体物理 51, 547 (2016).
[4] K. Ienaga, et al., Phys. Rev. Lett. 125, 257001 (2020).
[5] 家永紘一郎, 大熊哲, 固体物理 55, 723 (2020).
[6] K. Ienaga, et al., Nature Commun. 15, 2388 (2024).
[7] S. Maegochi, K. Ienaga, and S. Okuma, Sci. Rep. 14, 1232 (2024).
[8] 家永紘一郎 他, 日本物理学会2024年 春季大会 19aF1-4.

Contact: 吉田靖雄, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 12名、ZOOMオンライン 7名

第11回 金沢物性セミナー

タイトル:一つの分子を原子の大きさだけ動かす際の摩擦

講演者 : 岡林則夫(金沢大学)/ Norio Okabayashi (Kanazawa University)

日時:2024年6月11日(火)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

摩擦は、二つの物体の接点における相対運動によって生じる、エネルギー散逸をともなう過程である。日常生活にありふれた現象であり、基礎科学・応用科学における重要な課題でもあり、その研究の歴史は長い。摩擦の研究で重要になるのは、その接点の状態の把握であるが、この点は、走査型トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡の発明・発展により、大きく進展した。例えば、走査型トンネル顕微鏡の探針を用いて表面上の一個の分子を原子スケールで動かせるようになり[1]、摩擦を調べるプロトタイプとして注目された。実際、原子間力顕微鏡を用いることで、分子を動かし始めるために必要な力(静止摩擦)が測定できるようになった[2]。しかしながら、一個の分子を動かすときに発生するエネルギー散逸(動摩擦)に関する研究は、実験的な難しさと第一原理計算の難しさからほとんど取り扱われてこなかった。
この問題を解決するために、銅の単結晶表面に吸着した一酸化炭素分子とプローブ顕微鏡の金属探針先端との相互作用に着目した研究を推進し[3-5]、更に、探針による一酸化炭素分子の操作およびその際の静止摩擦・動摩擦の解明へと研究を展開してきた[6,7]。具体的には、原子間力顕微鏡を用い分子におよぼされる力場ならびに分子の構造変化におけるエネルギー散逸を測定し、走査型トンネル顕微鏡による振動分光により探針下の分子の振動状態・吸着状態を調べ、第一原理計算を用い現象の解釈を行った。そして、(1)探針を分子に近づけることで生じる引力や斥力に対応して、分子の振り子運動に対応する振動モードのエネルギーが変化すること、(2)斥力が強くなると分子にとって安定なサイトが、銅原子の直上(トップサイト)から、銅原子と銅原子の間(ブリッジサイト)に変わること、(3)探針を表面に近づけ遠ざけることを繰り返すと、分子がトップサイトとブリッジサイトの間を行き来し、その際にエネルギー散逸が発生すること、を見出した。更に、このようなブリッジサイトにおける一酸化炭素分子の吸着が、探針からの力による分子操作とその際に生じる動摩擦を理解するうえで重要であることを見出した。講演会では、これらの研究成果について説明するとともに、今後の研究展望を述べる。

参考文献
[1] D. M. Eigler and E. K. Schweizer, Nature 344 (1990) 524.
[2] M. Ternes, C. P. Lutz, C. F. Hirjibehedin, F. J. Giessibl, A. J. Heinrich. Science 319 (2008) 1066.
[3] N. Okabayashi, A. Gustafsson, A. Peronio, M. Paulsson, T. Arai, and F. J. Giessibl, Phys. Rev. B 93 (2016) 165415
[4] N. Okabayashi, A. Peronio, M. Paulsson, T. Arai, and F. J. Giessibl, PNAS 115 (2018) 4571
[5] 岡林則夫、日本物理学会誌 75 (2020) 279
[6] N. Okabayashi, T. Frederiksen, A. Liebig, F. J. Giessibl, Phys. Rev. Lett. 131 (2023) 148001
[7] N. Okabayashi, T. Frederiksen, A. Liebig, F. J. Giessibl, Phys. Rev. B 108 (2023) 165401

Contact: 吉田靖雄, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 18名、ZOOMオンライン 28名

*3月15日(金)に金沢大学駅前サテライトにおいて金沢物性科学研究会が行われました。

第10回 金沢物性セミナー

タイトル:点接合分光法を用いた近藤格子物質の電子状態測定

講演者 : 志賀雅亘(九州大学)/ Masanobu Shiga (Kyushu Univ.)

日時:2024年3月14日(木)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

近藤格子物質と呼ばれる希土類元素から構成された化合物では、遍歴的な伝導電子と局在したf電子の混成(c-f混成)によって、低温において近藤効果、価数揺動状態、重い電子状態などの様々な量子現象が発現する[1]。これらの量子現象の発現機構などを理解するためには、フェルミエネルギー近傍電子状態を調べることが重要であり、近年、走査トンネル分光法 (STS)を用いた近藤格子物質の電子状態測定が試みられている[2]。一方、探針と試料が直接接触していないSTS実験では、局在したf軌道への電子のトンネル確率が小さいため、f電子の電子状態を直接観測することが困難であることが指摘されている[3]。これらの背景から我々は、探針と試料を直接接触した状態で電子状態測定を行う点接合分光法(PCS)が、f電子の電子状態測定に有効であると考え、PCS法を用いた近藤格子物質の電子状態測定を行っている。
本セミナーでは、はじめに、近藤格子物質で発現する重い電子状態などの量子現象について概説する。その後、近藤格子物質の電子状態についての理論・実験研究について紹介する。最後に、我々が行った近藤格子物質のPCS実験[4-7]について説明する予定である。

[1] A. C. Hewson, The Kondo Problem to Heavy Fermions (Cambridge University Press, Cambridge, 1993).
[2] S. Ernst, et al., Nature (London) 474, 362 (2011).
[3] W. K. Park, et al., Phys. Rev. Lett. 108, 246403 (2012).
[4] M. Shiga, et al., Phys. Rev. B 100, 245117 (2019).
[5] M. Shiga, et al., Phys. Rev. B 103, L041113 (2021).
[6] M. Shiga, et al., Phys. Rev. B 108, 195130 (2023).
[7] T. Takahashi, M. Shiga, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 93, 023704, (2024).

Contact: 吉田靖雄, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 20名、ZOOMオンライン 6名

第9回 金沢物性セミナー

Title: Large-Scale DFT Study of Heterostructure 2D Materials

Speaker: Muhammad Y. H. Widianto (Dept. Mathematics ITS and MANA-NIMS)

Date: 27th February 2024, Tuesday, 9:00-10:30

Place: Lecture room 6 in the 5th building 

Abstract

Since graphene was discovered as a 2D materials, the study of this system is gradually increased. The relative twist angle between layers creates the superlattice with Moire-pattern influenced the electronic band structure that give rise to van Hove singularities. Large-scale density functional theory (DFT) has become a powerful tool to study the electronic and structural properties of heterostructures composed of graphene on top of hexagonal nitride (hBN). We observe that the large corrugation occurs when the twisted angle becomes small. The number of hBN layer effect to the electronic structure near the Fermi level. Additionally, we discuss the role of van der Waals interactions and the importance of including this effect in large-scale DFT studies to accurate capture the behavior of 2D materials heterostructures in the multilayers systems.

References:
1. K. Uchida, S. Furuya, J-I. Iwata, A. Oshiyama, PRB 90, 155451 (2014).
2. F. Haddadi, QS. Wu, A. J. Kruchkov, O. V. Yazyev, Nano Lett., 20, 2410-2415 (2020).
3. M. Long et. al, npj Com. Mat., 8, 73 (2022).

Contact: Fumiyuki Ishii, ishii@cphys.s.kanazawa-u.ac.jp

第8回 金沢物性セミナー

Title:Atom-by-atom electron spin resonance: towards qubit platforms at the atomic scale

Speaker : Soo-hyon Phark (Center for Quantum Nanoscience, Institute for Basic Science & Ewha Womans University)

Date:11th of December (Mon), 2023, 10:30-11:30 

Place:Large lecture hall in the 5th building 

Abstract

Qubits implemented using solid-state spins are easy to manipulate, but such architectures remain tricky to scale up. Addressability to individual atoms and atom-by-atom position control using a scanning tunneling microscope (STM) [1] opens the bottom-up design of functional quantum devices. As an extension of such potential to atomic/molecular spins, STM can provide a platform of solid-state qubits, which is unique in the sense of qubit platform design at a scale of ~1 nm, with an advantage of atom precision control of its structure and inter-qubit couplings. In this talk, I first introduce a recent advance of STM by combining conventional electron spin resonance (ESR), which picks up the advantages of the two techniques, high spatial resolution of STM and high energy resolution of ESR, enabling to drive and detect spin resonance of individual atoms on surfaces [2,3]. Then, I continue a successful demonstration of a qubit platform using atoms on a surface, where fast single-, two-, and three-qubit operations were performed in an all-electrical fashion, realized by atom-by-atom construction, coherent operations, and readout of coupled electron-spins in a STM [4–7].

References:
1. D. M. Eigler, E. K. Schweizer, Nature 344, 524–526 (1990).
2. S. Baumann et al. Science 350, 417-420 (2015).
3. K. Yang et al. Science 366, 509-512 (2019).
4. Y. Wang et al. npj Quantum Info. 9, 48 (2023).
5. S. Phark et al. Adv. Sci. 10, 2302033 (2023).
6. S. Phark et al. ACS Nano 17, 14144 (2023).
7. Y. Wang et al. Science 382, 87-92 (2023).

Contact: Yasuo Yoshida, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

The number of participants, onsite: 13, Zoom online:18

第7回 金沢物性セミナー

タイトル:超伝導化した準結晶における自発的磁束ピン留め

講演者 : 永井佑紀(原子力研究機構)/ Yuki Nagai (JAEA)

日時:2023年12月5日(火)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

準結晶とは並進対称性と持たない固体である。近年、Al-Zn-Mg準結晶が超伝導となることが報告された[1]。準結晶では、系に並進対称性がないために、運動量が良い量子数とならず、通常の一様系のBCS理論のような波数kと-kのCooperペアを考えることができない。その結果、準結晶中での超伝導状態は本質的に空間的に非一様な超伝導状態であることが知られている。一方で、このような超伝導秩序変数の空間的な非一様性は局所状態密度に現れるスペクトルギャップとは直接の対応がなく、走査型トンネル顕微鏡(STM)などで検出することは難しい。
 そこで、我々は、このような非一様性を検出できる方法を提案するため、超伝導磁束に着目した。超伝導磁束の位置は自由エネルギー極小となる位置に配置されるため、超伝導秩序変数の空間的非一様性を超伝導磁束の振る舞いによって検出できるのではないかと考えた。
 本講演では、シミュレーションによって、超伝導磁束が秩序変数の空間的非一様性によって自発的にピン留めされることを示す[2]。

[1] K. Kamiya et al., Nat. Commun. 9, 154 (2018).
[2] YN, Phys. Rev. B 106, 064506 (2022)

Contact: 吉田靖雄, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 23名、ZOOMオンライン 3名

第6回 金沢物性セミナー

タイトル:トロイダル秩序にまつわる新しい交差相関応答

講演者 : 楠瀬博明(明治大学理工学部)/ Hiroyuki Kusunose (Meiji Univ.)

日時:2023年11月21日(火)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館講義棟2階8講

Abstract

物質の対称性と機能性は密接に関係している。対称性を自発的に破る代表的な秩序としては、強磁性や強誘電性が挙げられるが、電子の軌道・スピンさらに構造の自由度までを考えると、強的な秩序の可能性はさらに広がる。強磁性や強誘電性とは異なるタイプの秩序として、近年脚光を浴びているのがトロイダルの秩序である。
本セミナーでは、トロイダル秩序に関する話題として、時間・空間反転対称性は破らず
鏡映対称性のみを破るフェロアキシャル秩序[1]と時間反転だけを破るフェロトロイダル
モノポール秩序[2]について紹介する。前者においては、軸性の秩序変数がベクトル量を回転させる役割を担うことから、特に電場方向に平行なスピン流を生成できる可能性があり、新しい量子伝導現象を生み出す起源になる得る。一方、後者は時間反転のみを破る秩序変数により、物理量の時間反転の性質だけを反転させる応答を生み出すことができる。これにより、電場による反強磁性の制御や電場・磁場の複合場によるカイラリティ制御などを実現できる可能性がある。これらの新しい交差相関応答について紹介したい。

[1] S. Hayami, R. Oiwa, H. Kusunose, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 113702 (2022)
[2] S. Hayami, H. Kusunose, Phys. Rev. B 108, L140409 (2023)

Contact: 小幡正雄, obata@cphys.s.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 20名

第5回 金沢物性セミナー

タイトル:原子層結晶における新奇スピン偏極電子/Peculiar spin-polarized electrons in atomic layer crystals

講演者 : 坂本一之(大阪大学)/Kazuyuki Sakamoto (Osaka University)

日時:2023年11月14日(火)、16:30-17:30

場所:自然科学5号館、物理会議室(404/405号室)

Abstract

物質は、その構造が3次元から2次元に低下すると種々の興味深い物性が発現する。これらの低次元物性を用いれば、これまでにないメカニズムで新しい機能性を有するデバイスが作製可能となることから、固体表面上に作製した2次元原子層結晶は基礎科学的興味だけでなく、応用的な興味をも有する研究対象である。本講演では、2次元原子層結晶特有の低次元物性のうち、同結晶中に発現するスピン偏極電子に焦点を当てる。重元素を用いて作製した原子層結晶は、スピン軌道相互作用と表面垂直方向の空間反転対称性の破れにより非磁性物質でもスピン偏極電子バンドが生じる。これはラシュバ効果[1]として知られており、原子層結晶の電子状態が理想的な2次元自由電子気体のような場合、電子スピンの向きは2次元面に平行で波数に対して垂直方向を向くとなる。しかし、現実の原子層結晶では周期的な構造などにより理想気体とは異なる電子状態となる結果、表面垂直方向を向くスピンやゼーマン型のスピン分裂など、ラシュバ効果では説明できない電子スピンが観測されている。我々は、これらの新奇電子スピンの起源が原子構造の対称性[2,3]や軌道角運動量[4,5]であることを明らかにしたので、その結果を紹介する。また、超伝導を発現する原子層結晶への(磁性)有機分子吸着の影響と新奇超伝導状態の可能性[6,7]についても述べる。

参考文献:
[1] Y.A. Bychkov and E.J. Rashba, JETP Lett. 39, 78 (1984).
[2] K. Sakamoto et al., Phys. Rev. Lett. 102, 096805 (2009), Phys. Rev. Lett. 103, 156801 (2009), Nat. Commun. 4, 2073 (2013).
[3] E. Annese et al., Phys. Rev. Lett. 117, 016803 (2016).
[4] K. Kobayashi et al., Phys. Rev. Lett. 125, 176401 (2020).
[5] K. Kobayashi et al., Nano Lett. 23, 7675 (2023).
[6] S. Yoshizawa et al., Nano Lett. 17, 2287 (2017).
[7] S. Inagaki et al., Phys. Rev. Mater. 7, 024805 (2023).

世話人:吉田靖雄, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト 17名、ZOOMオンライン 8名

第4回 金沢物性セミナー/The 4th Condensed Matter Seminar in Kanazawa

Title: Nonlinear optics on surface and interface: nano-structure and composition analysis

Speaker: Kuang Yao Lo (National Cheng Kung University)

Date: 23rd October 2023, Monday, 16:30-17:30

Place: Lecture room #404/405 in the 5th building 

Abstract

Optical reflected second harmonic generation (RSHG) has been proven to be a sensitive tool for obtaining information regarding the structure of semiconductor surfaces and interfaces. Rotational anisotropy RSHG (RA–RSHG) is used to analyze the structural symmetry of crystals, especially the surface region of centrosymmetric materials. Due to RSHG with the advantage of analyzing planar dipole symmetry, RSHG method has been widely used to study 2D materials, nano surface and interface.
Non-destructive examination of dopant concentration is essential in advanced semiconductor fabrication. One of the main issues to be tackled by the silicon device industry for miniaturization is the production of ultra-shallow doped layers, currently a key process in the silicon technology. The symmetry of the second optical susceptibility that governs the process of RSHG is directly related to the lattice symmetry and dopant situation. Therefore, RSHG has proven to be an efficient and powerful non-destructive tool for investigating the structural and electronic properties of material implanted on the surface layer, which reveal the change of dipole structure due to varied dopant concentration in RA-RSHG spectrum. However, RA-RSHG method to inspect symmetrical dipole contribution is not suitable for doped Si thin film (DSTF) since DSTF is grown by CVD method with in-situ doping and has less crystalline property. To tackle this issue, we suggest a revised time-dependent second harmonic generation (TD-SHG) for quantifying the phosphorus (P) concentration in DSTF. The correlation between the development of electric field-induced second harmonic generation (EFISHG) and dopant concentration forms the foundation of this approach. The technique is based on analyzing the evolution of the internal photoemission induced charge trapping and the concomitant electric field induced SHG. We further demonstrate a strategy to estimate the dopant concentration by considering the Fermi-Dirac distribution and the tunneling probability, without involving the crystallinity of DSUTF. The dopant concentration between 1017 to 1020 (atom/cm3) is unambiguously evaluated by this method. The unprecedented approach of using in-situ method to reveal dopant concentration of DSUTF via time-dependent SHG constitutes an important step towards in-line monitoring and optimizing the fabrication conditions.

Contact: Yasuo Yoshida, yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp

The number of participants: 10

第3回 金沢物性セミナー

タイトル:鉄系超伝導:発見とその後の展開 / Iron-based Superconductors: Discovery and Subsequent Developments

講演者 : 細野秀雄(東工大)/Hideo Hosono (Tokyo Institute of Technology)

日時:2023年10月23日(月) 10:30-11:30

場所:金沢大学自然科学5号館2階大講義室

Abstract

我々が鉄系超伝導体を最初に報告したのは 2006 年&2008 年なので、既に 15 年以上が経過した。2008 年の論文は、全 ての分野で最も引用されたものになるなど、大きな関心を集めた。それから 15 年が経過し、その全貌が明らかになってき た。本講演では、発見に至るまでの経緯とその後の展開について、筆者の研究グループの結果を中心に紹介したい。

参考文献:
H. Hosono, A. Yamamoto, H. Hiramatsu, Y. Ma,
Recent advances in iron-based superconductors superconductors toward applications,
Materials today, 21, 278-302 (2008).

世話人:小畑由紀子, yobata@se.kanazawa-u.ac.jp

参加者数: オンサイト45名、ZOOMオンライン 24名

第2回金沢物性セミナー/The 2nd Condensed Matter Seminar in Kanazawa 

Title: Effects of electron wave function in optoelectronics and transport

Speaker: Eddwi Hesky Hasdeo [Badan Riset dan Inovasi Nasional (BRIN), Indonesia & Université du Luxembourg]

Date: 1st September 2023, Friday, 15:00-16:00

Place: Lecture room 5 in the 5th building 

Abstract

Electron wave function in solids can change electron’s trajectory in
a non-trivial way. The chief example is the Berry curvature that
leads to anomalous electron velocity. In this talk, we will explore
several phenomena of such effects in optoelectronics and transport.
Firstly, spatial gap inversion induces topological boundary states in
bilayer graphene. We investigate the collective motion (plasmons) of
the topological states [1]. Next, we show non-trivial optical
responses of anomalous Hall materials such as cyclotron motion
without magnetic field and dynamical Hall currents without breaking
time reversal symmetry [2,3]. Finally, I will talk about the effect
of wave functions in electron hydrodynamics [4,5].

References
[1] EHH & JCW Song, Long-lived domain wall plasmons in gapped bilayer
graphene, Nano Letters 17, 7252 (2017).
[2] EHH, AJ Frenzel, JCW Song, Cyclotron motion without magnetic
field, New Journal of Physics 21, 083026 (2019).
[3]JM Adhidewata, RWM Komalig, MS Ukhtary, ART Nugraha, BE Gunara,
EHH, Trigonal warping effects on optical properties of anomalous Hall
materials, Physical Review B 107, 155415 (2023).
[4]EHH, J Ekström, EG Idrisov, TL Schmidt, Electron hydrodynamics of
two-dimensional anomalous Hall materials Physical Review B 103,
125106 (2021).
[5]EG Idrisov, EHH, BN Radhakrishnan, TL Schmidt, Hydrodynamic
Navier-Stokes equations in two-dimensional systems with Rashba
spin-orbit coupling, arXiv preprint arXiv:2307.07408.

Contact: Fumiyuki Ishii, ishii@cphys.s.kanazawa-u.ac.jp

The number of participants: 25

第1回 金沢物性セミナー

タイトル:ESR-STMによる単原子スピン状態の自在制御

講演者 : 土師将裕(東大物性研)/ Masahiro Haze (ISSP, University of Tokyo)

日時:2023年6月9日(金) 15:00-16:00

場所:金沢大学自然科学5号館2階大講義室(zoomによるオンライン参加登録はこちら

Abstract

単一原子や分子のスピンを量子ビットとして量子ゲート素子を実現することは、量子演算の実現に向けたボトムアップ型のアプローチとして非常に有用である。量子ゲート素子を実現するには、「量子状態の観察」「量子状態の制御」「量子状態の重ね合わせ」を実現することが不可欠である。走査トンネル顕微鏡(STM)は原子レベルで量子状態の観察・操作の可能性のある非常に強力なツールである。特に、電子スピン共鳴(ESR)と組み合わせたESR-STM手法は、meV以下のエネルギー分解能で個々のスピン状態を観察および量子状態の自在制御の実現可能な手法として期待されている。これまで、パルスESR-STMを用いた「量子状態の制御」は実現されてきたが、それらは全てブロッホ球上ではY-Z平面上での操作に限られてきた。一方で、X-Z平面を含むブロッホ球全体にわたる制御は実現されていなかった。また、これまでのESR-STMでは、量子状態における量子化軸であるz軸の情報(密度行列における対角成分)のみの測定に留まっており、位相情報(密度行列における非対角成分)までを含めた「量子状態の観察」はなされてこなかった。そこで本研究では、それらの問題を解決すべく、IQミキサーによる高周波制御を採用した。その結果、量子状態をブロッホ球全体にわたった「量子状態の制御」に成功した。また、同様の方法を駆使することで、量子状態のz成分の情報だけでなくx-y成分を含めた「量子状態の観察」にも成功した。講演では、ESR-STMの原理や先行研究の紹介から、これらの成果[1]についての報告を行う予定である。さらに、STMによる原子操作を用いた「量子状態の重ね合わせ」の実現[2]についても報告したいと考えている。

参考文献

世話人:吉田靖雄

参加者数: オンサイト 17名、ZOOMオンライン 28名

Information

趣旨 / Concept

2023年5月に金沢大学の数名の物性研究者により本セミナーシリーズは開始されました。このセミナーシリーズを通して、第一線で活躍する国内外の研究者から学内の若手研究者までが最新の研究内容を議論し合い、その中から共同研究や様々な人的交流が生まれることを期待します。セミナーの内容にご興味のある方は、どなたでもご参加下さい。また、セミナー幹事として関わって下さる方も歓迎します。

This seminar series was initiated in May 2023 by several condensed matter scientists in Kanazawa University. Through this seminar series, we hope that both domestic and international researchers at the forefront and young researchers within the university will discuss the latest research topics and that collaborative research and various personal exchanges will emerge from such discussions. Anyone who is interested in the seminar is welcome to attend. We also welcome those who are involved as seminar organizers.

セミナー幹事 / Organizers

石井史之、吉田靖雄、小畑由紀子、小幡正雄、新井豊子、高橋圭 / Fumiyuki Ishii, Yasuo Yoshida, Yukiko Obata, Masao Obata, Toyoko Arai, Kei Takahashi

お問い合わせ / CONtact

吉田靖雄 ・yyoshida at se.kanazawa-u.ac.jp