金沢大学
超低温物理学研究室へ
ようこそ!

研究室メンバー

 

松本 宏一(まつもと こういち) 
教授
物理コース

Email: k.matsu@staff.kanazawa-u.ac.jp 
Tel: 076-264-5669
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阿部 聡(あべ さとし)
教授
物理コース

Email: abesi@staff.kanazawa-u.ac.jp  
Tel: 076-264-5665
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吉田 靖雄 (よしだ やすお)
准教授
物理コース

Email: yyoshida@se.kanazawa-u.ac.jp 
Tel: 076-264-5668
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辻井 宏之 (つじい ひろゆき)
教授
人間社会学域学校教育学類

Email: htsujii@staff.kanazawa-u.ac.jp
金沢大学研究者情報

大橋 政司 (おおはし まさし)
教授
地球社会基盤学類

Email: ohashi@se.kanazawa-u.ac.jp
金沢大学研究者情報

布村 晃一 (ぬのむら こういち)
技術専門職員

Email: n2683@adm.kanazawa-u.ac.jp


Anastasia Lopatina(アナスタシア・ロパティナ)
博士3年生

Renas MUKHAMETZIANOV (レナス・ムッカメジアノフ)
博士1年生

浅井 桃花(あさい ももか)
修士2年生

大村 賢矢(おおむら けんや)
修士2年生

平野 優友(ひらの ゆうすけ)
修士2年生

牧野 隼士(まきの はやと)
修士2年生

松永 啓吾(まつなが けいご) 
修士2年生

Erlina Tik Man (エリーナ・ティク・マン)
修士2年生

下川 貴也(しもかわ たかや)
修士1年生

中島 祥太(なかしま しょうた)
修士1年生

水口 皓平(みずぐち こうへい)
修士1年生

森山 曉栄(もりやま あきひで)
修士1年生

Ervin Naufal Arrasyid (エルフィン・ナウファル・アラシッド)
修士1年生

五十嵐 柚依(いがらし ゆい)
学類4年生

兼子 裕矢(かねこ ゆうや)
学類4年生

岸谷 明日美(きしや あすみ)
学類4年生

佐藤 魁和(さとう かいと)
学類4年生

長谷川 博紀(はせがわ ひろのり)
学類4年生

堀江 征生(ほりえ まさき)
学類4年生

研究室紹介

ここでは、普段私たちが営んでいる研究生活の一部を簡単に紹介したいと思います。実験は主に極低温棟で行っています。ここにはヘリウム液化装置が敷設しており、液体ヘリウムの供給が行われています。液体ヘリウムは実験中に蒸発しますが、蒸発ガスは回収・再液化し、ヘリウムのランニングコストを下げています。また液体窒素の供給も極低温棟で行っています。極低温・超低温で実験を行っているので一見寒そうなところですが、冬場は本当に寒いです。実験はほかに、共同研究センターや理学部構内でも行っています。実験によっては測定が長引いたりして徹夜しなければならないこともたまにあります。実験装置は市販のものを購入して使うことが大半ですが、簡単なものは手作りで作製します。市販のものでも実験の目的に合わせて改良したりもします。そのための設計や旋盤工作、電気・電子回路工作など様々な工作を自分たちで行います。ですから器用な人はけっこう重宝されます。こうした作業を通して実践的に知識を身に付けていくのです。また実験で使う器具や装置は大きなもの、重たいものが多く、力技が必要な時もあります。なんだかこのように書いていると体力勝負の研究室みたいですが、もちろん物理の勉強もしっかりしています。

学生には一人一人にデスクが与えられ、実験や工作をしていない時はそこで勉強します。勉強ばかりでは疲れるので、コーヒーやお茶を飲んだり、雑談したり、インターネットをしたりと適度に息抜きもしています。基本的に研究室内のパソコンはインターネットに接続されているので、我々学生もインターネットを用いた高速な情報検索が可能です。パソコンは実験で取ったデータの解析や学会発表の原稿、卒研、修論作成にも威力を発揮します。そんなわけで、パソコンが使えることはもはやあたりまえのようになってきていますが、研究室に入ってからでも十分に覚えることができます。学生個人にパソコンが大学から与えられることはないので、各々でパソコンは用意しています。

超低温研究室の特色として、海外からの留学生やお客さんが多いということがあります。特にロシアのカザン大学からはこれまでに多くの人たちが研究室を訪れ、一緒に研究を行ってきました。とても国際色豊かな研究室です。日本人学生も油断していると海外に出張させられることもあります。また、国内の他大学や研究機関との間でも装置の貸し借りをしたり、試料をもらったりと共同研究を盛んに行っています。また研究室では、研究室内の親睦を図るためや日ごろのウサ(?)を晴らすために、花見、バーベキュー、忘年会など年間を通して様々なレクリエーションを行っています。企画もその時々にみんなで考えています。新しい企画の提案があれば積極的に取り入れています。そういった積極性はこの研究室では高く評価されます。

超低温の世界

自然界で最も低い温度は絶対零度(摂氏-273.15℃)である。この温度は理論値であり、現実には絶対零度に到達することは不可能である。しかし絶対零度に限りなく近づくことは極限へのチャレンジであり、実験家の飽くなきフロンティア精神の現れである。

低温を作る

1908年、Kemerlingh Onnesがヘリウムの液化(4.2K)に成功したのを端に発して、本格的に低温研究の歴史が始まる。その後、4K以下の温度領域において超伝導、4Heの超流動、3Heの超流動等に代表される常温では考えられない特異な現象が次々に発見されていく。これらの現象は古典物理学の範疇を超えた、本質的に量子力学によって説明される現象である。4He温度以下の極低温・超低温領域は、現在多くの物理学者が研究テーマと定め、新たな発見を求めて盛んな研究を続けている。

物理学的な興味もさることながら、”低温”を生成する技術そのものも各方面から注目を集めている。Onnesのヘリウムの液化より現在にいたるまで、先人達のたゆまぬ努力により”低温技術”は着実に進歩してきた。それは、純粋に”世界一低い温度”を目指すということ以外にも、超伝導マグネットや極低温冷凍機のような応用分野に直結しているということが、技術の発展の大きな原動力となっているのである。現在ではヘリウムの液化機は低温を扱う研究施設には当然のごとく導入されており、液体ヘリウムを得るのはさほど難を必要としない。ヘリウム温度以下の極低温・超低温を得るには、3He冷凍機、希釈冷凍機、ポメランチュク冷却装置、断熱消磁装置などがある。これらはそれぞれ異なった物理現象を用いて極低温を実現させている。これらの装置は市販化もされている。

現在、超低温生成法として最も有効かつ最低到達温度が低いのは、断熱消磁法である。この手法は、歴史的には、電子スピンによる磁気モーメントを用いる断熱消磁法、すなわち常磁性塩の磁気冷却に端を発している。現在では原子核の磁気モーメントを用いる断熱消磁法が主流となっている。1960年代、希釈冷凍機と超伝導マグネットの開発により、核断熱消磁法は飛躍的に進歩した。この2つを組み合わせることにより、より低い温度を効率よく生成できるようになった。それでも改良すべき技術課題は多く、超低温分野ではまだまだ発展途上にある。現在では格子系では銅を12μK(Bayreuth 1987)、核スピン系では銀、ロジウムなどで0.5nK(Helsinki 1993)が低温の世界記録となっている。

核断熱消磁法の原理

核スピンと核磁気モーメントをもつ原子核の集団を想定する。核スピンはその周囲とは弱い相互作用しかもっていないので、温度が非常に低くないかぎりスピンの向きは任意である。すなわち無秩序であり、核のみを考えたときの系のエントロピーは高い状態である。ここに外部から強い磁場を加えると、ある程度高い温度でも核磁気モーメントは外磁場の方向に整列し、部分的に秩序化が起こって、系全体としてのエントロピーは少し減少する。このときエントロピーは外磁場と温度の比の関数である。いま初期温度Tiで磁場Biを加え、等温磁化を行うと、磁化熱が発生する(励磁過程)。この熱はたとえば希釈冷凍機などの予冷ステージによって取り除かれる。そこで再び初期温度Ti(図のA点)まで冷却された後に、予冷ステージと核系とを熱的に分離する。そして断熱状態に保った核系から、印加されている磁場を徐々に下げていく(消磁過程)。以上の操作は上図において、矢印にそってA→Bと状態を変える。外界から孤立した系の状態は、熱の擾乱がないので変化しない。すなわち系の状態を示すエントロピーは一定である。エントロピーが磁場と温度の比の関数であり、それが一定であるということは、断熱状態では磁場の減少にともない温度の低下、すなわち冷却効果が起こることを意味する。

以上の原理に従えば、外磁場を零にすれば到達温度は絶対零度となり、熱力学第3法則に反するが、実際には核スピン間に働く相互作用による内部磁場があるので、絶対零度は実現しない。また現実的には、完全な断熱状態はつくり得ないので、外部からの必然的な熱流入によっても、到達温度は影響を受ける。さらに、いままでは核系のみの話であったが、核が周囲の電子系と熱交換することも考えなければならない。実際には到達温度は核スピンのみでの温度(核スピン温度)と、電子系(格子系)で熱平衡に達した温度(格子温度)とに分けられている。以上のようなことを考慮して、実験的に最適な条件を見出すことが求められる。


核断熱消磁実験装置の構成



装置は大きくわけて4つのパートに分けられる。核ステージ(A)、強磁場を発生させるマグネット(B)、予冷ステージ(C)、予冷ステージと核ステージを熱的に連結したり遮断したりする熱スイッチである(D)。現在では初期温度をなるべく低く、かつ連続的・長期間にわたって維持できる希釈冷凍機が予冷ステージとして広く用いられている。マグネットには、近年の高性能な超伝導線材の開発により、強磁場を発生できる小型化した超伝導マグネットが適している。核ステージとしては、大きな核磁気モーメントをもつ、電子系と素早く熱緩和できる、なおかつ超低温を長く保つために大きな比熱を持つ、等の条件を満たす物質が望まれる。実際には、加工性や、強固な構造にできる、入手のしやすさなどの理由から銅が選ばれてきた。銅材の形状も長い間最適なものが試されてきたが、渦電流発熱を極力押さえる、熱伝導を良くする、振動に強くするなどの条件から、現在ではひとかたまりの銅から切出して断面にスリットをいれたものが一般的である。これはバンドルと呼ばれる。

このバンドルと希釈冷凍機とを熱的につなげたり、切ったりする熱スイッチは、核断熱消磁装置において重要である。この装置の性能で超低温維持時間や、ひいては最低温度を決定することもありうる。装置の構成は、超伝導金属を用いた本体と、オンオフのスイッチの役割をする小型コイルである。常伝導状態では電気抵抗は十分低く、ウィーデマン・フランツの法則により、その熱伝導度は高い。これがスイッチオンの状態である。これに対して、超伝導状態では、金属中の電子は熱の担体とはならず、熱はフォノンのみによって運ばれ、熱伝導度は極端に低くなる。すなわち近似的に断熱状態が実現される。これがスイッチオフの状態である。しかし、希釈冷凍機による予冷段階は数mKの温度領域であり、それはほとんどの金属超伝導体の転移温度以下にあり、そのままだと予冷中にスイッチがオフになってしまう。そこで小型のコイルに電流を流し、超伝導臨界磁場以上の磁場を発生させて、超伝導状態を破り、人工的に常伝導状態をつくる。そして予冷が終了した後には、コイルに電流の流すのを止めて、超伝導状態に戻し、スイッチオフとする。この操作の後に、超伝導マグネットの磁場を徐々に下げていって断熱消磁を実行する。